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地図情報
地図情報 Vol.32 No.4 通巻124号 「地形図」再考
〔表紙・裏表紙解説〕
■「北条砂丘 土地利用の変遷」図
 私が大学の卒論テーマにしたのが「北条砂丘における土地利用の変遷」であった。明治期以来の旧地形図や川崎敏氏の地図、そして私の現地調査図を並べてトレースし、変遷史が判るように図示したのだった。
 これを教材化し、B4判に白黒印刷。そして高校生に色塗り作業と感想・意見を。最後にスライド授業でまとめをする2時間授業で完結。補足的に最新の5万分の1地形図「倉吉」の部分を添え、再現した物が本図である。概要を記してみたい。
(A)1898、明治31年:江戸~明治期にかけては、飛砂や潮風を防ぐ防砂・防潮・防風林の造林に苦心する。まさに砂との闘いだ。そんな中にあって1860(万延元)年頃、桝田新蔵による水路開削・砂丘の水田化に成功。
(B)1932、昭和7年:砂丘の固定化で、乾燥に強い桑の栽培(養蚕業)が盛んになる。浜井戸利用。
(C)1942、昭和17年:戦時中の姿。昭和4年の世界恐慌の影響がジワリと出ていたが、作物転換は出来ず。
(D)1961、昭和36年:昭和27~37年にスプリンクラーの導入で、畑地灌漑の近代化が進展。食生活の洋風化とあいまってブドウ・長芋の栽培が増大する。
(E)1970、昭和45年:昭和42~49年に砂丘西部から圃場整備事業が進展。長芋・ブドウの他に、葉タバコ・ラッキョウ・スイカ・大根・ネギなどの栽培も。
(F)2007、平成19年:砂丘地の現況。北条バイパス路の建設と風車9基(2005年)の立地。防砂林の畑地化やブドウ・水田の漸減がみられる。天神川右岸の長瀬高浜も砂丘地。
 全体をとおして、経済・社会の進展による土地利用形態の変遷を読図できるようだ。

〔付録解説〕
■「日本周遊一覧 日本景勝三百図絵」金子常光作画
東京・九段書房 昭和3年11月5日発行 定価70銭
 付録図の作画者金子常光(本名は金造)は、明治27年生まれで吉田初三郎の10年後輩である。と同時に『鉄道旅行案内』他、弟子として活躍していたが、初三郎工房の大正名所図絵社(後の観光社)とは大正11年に離反して独立。新たに日本名所図絵社を旗揚げした絵師である。
 初三郎の最大のライバルとして、独立後の初作は「四万温泉名所図絵」で、その後は「伸びゆく大横浜」(昭和7年)、「台湾鳥瞰図」(昭和8年)、「山は招く長野電鉄沿線」(昭和12年)など生涯1500余種の作品を残している。これらの印刷鳥瞰図作品の中で、とりわけ大版図(80×108cm)こそ本図である。
 構図は、全国といっても昭和3年の時代背景から朝鮮半島・台湾・南樺太を含む8色刷彩色の列島鳥瞰図である。図隔取りの関係か奄美・沖縄方面がないのは寂しい。
 地形表現はCG程の精密さは欠けるが特徴をとらえ、著名な温泉は湯煙りを、山岳地や海岸、湖沼、河川、渓谷、滝、神社・仏閣など約300箇所ほどの絶景を一覧のもとに描画。主な鉄道・航路や駅名も記載してあるので位置関係が把握容易である。
 なお、昭和18年の「秩父絶勝三峰山名所図絵」「長江沿岸大鳥瞰図」などを最後に、戦後の消息が、実務担当の小山吉三や合作絵師だった中田富仙(甚吉)同様に不詳であるのが気になっている。
(藤本一美 首都大学東京非常勤講師)
目 次

■巻頭随筆
・地形図数値化の流れと紙地形図
■特集 地形図 再考
・紙の地形図を残す−制作の立場にあった者のかんがえていること
・紙の地形図を残す−ユーザーの立場から考えること
・電子国土基本図の今
・海図−紙海図と電子海図について考える
■コラム
 「海図の黄金時代」L’ÂGE D’OR DES CARTES MARINES 地図展と同図録
■地図楽
・読図のヒントⅩⅢ 美しかったコロタイプ印刷
・紙の地形図をじっくり眺めてみよう 第11回 現地視察に行ってきました「岩手県宮古市田老地区」
・古地図を旅するⅧ 初の実測日本全図(伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』1821年)
■文献紹介
・地図で見る 西日本の古代、地図で見る 東日本の古代
・地図教材を作って半世紀−掛地図と地球儀の世界−
・地図で読む昭和の日本=定点観測でたどる街の風景=
■巡検・見学会・セミナー 猿橋巡検に参加して
■資料室
・2012年9月号~11月号
・(一財)地図情報センターからのお知らせ
・受贈図書
・表紙・裏表紙・付録解説
■付録
・「日本周遊一覧 日本景勝三百図絵」金子常光作画
〔付録〕「日本周遊一覧 日本景勝三百図絵」金子常光作画