〔表紙解説〕
鳥瞰図「南からの剣沢と剣岳」 五百澤智也氏作
五百澤智也氏(1933~2013)の書かれた多数の鳥瞰図から1枚選びました。原寸は364×258mmです。
雑誌岳人に「氷の山・火の山」シリーズ(1974~1977)として連載された文章と画を、講談社『鳥瞰図譜=日本アルプス』(1979)として、まとめて出版されたものの1枚です。
雲に浮かぶ?岳の岩峰と雪渓が綺麗です。
画面中央から手前にかけて、北アルプスの代表的な氷食谷である?沢が描かれ、谷頭部の?沢カールを見おろす視点になっています。カール底に、羊背岩の高まりや畝状のモレーンがあり、複雑な起伏になっています。また、源頭のハマグリ雪雪渓からの川の侵食で、カール底がV字谷でえぐられている様子など、細かい地形変化の様子が活写されています。
これらの図は、氏が自から近接撮影された航空斜め写真を、実体視し、トレースすることにより作図されています。その結果、雲も含めて撮影時の情景であり、誇張やデフォルメはありません。生前、氏から地図の代わりに使える鳥瞰図として描いたのだと伺った通りです。
しかし、単なる写真のトレースでなく、氏が地形判読によって、地形を成因分類し、その判読結果を、地表形態の種別として、卓越した描画技術により描き分けて作られた、すばらしい風景画でもあります。この点で、五百澤氏しか描けない鳥瞰図・地図となっていると思います。
また、ペンの線描で地形を描写し、灰色とうす青のシェーディング画で、ハイマツ等の植生や空・・・他の絵では遠景・・・を表現する、3色刷りです。この3色は、それぞれ別図として描かれていて、重ねて3枚の版下として使い、シェーディングは色の濃度指定をして印刷するという技法で作られています。彩色地形図の陰影や段彩のやり方で、いかにも地図作りという感じを受けます。
注:表題の“剣”の表記は原図に準じております。
(千葉県立中央博物館館友 吉村光敏)